数年前、共通テスト当日に、高校生が受験生を刺すという痛ましい事件がありました。さらにさかのぼると、医学部受験を、母親に繰り返し強いられた娘が、母親を刺殺するという衝撃的な事件も起きています。
どちらも決して許されるべき行為ではありません。けれども、果たして「すべては本人が悪い」と言い切れるでしょうか?
私は、そうは思いません。
彼らを取り巻く環境、そしてプレッシャー。その背後に、親や社会からの重圧があったのではないかと思うのです。追い詰められ、出口が見えず、助けを求められなかった――そんな背景があったのではないでしょうか。
受験をめぐっては、うつ病を発症したり、不合格をきっかけに自死を選んでしまう若者のニュースもあとを絶ちません。
私が勤めている病院にも、受験勉強のストレスが引き金で精神科に入院する高校生が、決して珍しくありません。また、志望校に不合格だったことが心の深い傷となり、その後うつ病を発症し、何十年も症状の浮き沈みを繰り返しながら生きている方もいます。
彼らに共通しているのは――自己肯定感の低さです。
「勉強がうまくいかない自分はダメな人間だ」
「親をがっかりさせた」
「生きている意味がない」
そんな思いを心に抱え、静かに壊れていくのです。
そしてこの自己否定感は、必ずしも親や先生が直接言葉で追い詰めたから生じるわけではありません。本人自身が「もっとやらなきゃ」「完璧でなければ意味がない」と、内側から自分を責め続けているケースも多いのです。
だからこそ、そのプレッシャーから子どもを解放してあげてください。
「勉強がすべてじゃない」
「受験に失敗しても、あなたの価値は何も変わらないよ」
「あなたが幸せに生きていけることが、一番大切なんだよ」
このメッセージを、繰り返し伝えてあげてほしいのです。
私自身、息子に対しては「幸せに生きる力をつけてほしい」という思いを一貫して伝えてきました。
いい大学に入って、高収入の仕事に就く――それで幸せになれる人もいます。でも、そうでない人生にも、無数の素晴らしい形があります。
専門学校で学んで、好きな仕事を見つけ、日々生き生きと過ごしている人。職人の道を極めて、東大卒よりも高収入を得ている人。そんな人もたくさんいます。
「いい大学に入ることだけが成功」と信じてしまうと、思うように結果が出ないときに「自分は失敗作だ」と思い込んでしまうのです。
だからこそ、親の価値観が大きな影響を与えるということを、忘れないでください。
そして、子どもが発するSOSのサインを見逃さないでください。
【子どものSOSサインとは?】
子どもが限界を感じているとき、心と身体の両面でさまざまなサインが出ます。
精神的サイン
- 急に無気力になる、楽しみにしていたことへの興味を失う
- 「自分なんていなくなればいい」といった発言
- 感情の起伏が激しくなる(怒りっぽい、泣きやすい)
- 一人になりたがる、家族との会話を避ける
- 「どうせ無理」「頑張っても意味がない」など、否定的な言葉が増える
身体的サイン
- 頭痛や腹痛が頻繁に起こる
- 不眠、過眠
- 食欲の極端な増減
- 慢性的な疲労感
- 学校や塾を休みがちになる、登校しぶりが出る
【サインに気づいたとき、どうする?】
- 責めない・否定しない
「そんな弱音を吐くな」「みんな頑張ってる」などの言葉は逆効果です。子どもの心に「自分はダメなんだ」という思いをさらに植えつけてしまいます。 - まず、受け止める
「そう感じてるんだね」「つらいよね」と、気持ちをそのまま受け止めてあげてください。話せる雰囲気をつくることが大切です。 - 選択肢を広げてあげる
「受験はゴールじゃない」「やり直しは何度でもできる」――親からそう言ってもらえることで、子どもは視野が広がり、安心感を持てます。 - 勉強を一旦休ませる
精神的・身体的に限界を迎えているときは、「少し勉強から離れて休む」という選択も大切です。たとえ数日、数週間であっても、心と体を回復させる時間をとることは、結果としてその後の学びにも良い影響をもたらします。「休む=逃げ」ではありません。「休む=生き直す準備」です。 - 専門家の力を借りる
必要ならば、早めに学校のカウンセラーや精神科医などの専門家につなげてください。心の問題は、放置すれば悪化します。
最後に
受験勉強は、確かに努力と継続が必要な過程です。ときに、苦しいと感じることもあるでしょう。
でも、その苦しさが「命に関わるもの」になってしまってはいけません。
どうか、「合格」がゴールではなく、「幸せに生きること」がゴールだということを、親として伝え続けてください。
子どもたちは、親の目線や言葉に、敏感です。
だからこそ、「無理して頑張らなくてもいい」「君の存在が何より大切だよ」という安心感を、毎日少しずつ、届けてあげてほしいのです。
私たち大人にできるのは、未来を担う子どもたちが、自分を肯定しながら生きていけるよう、そっと支えることではないでしょうか。
過干渉に注意して下さい!!



